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外国の文化・特徴

ネパール人はピンチでも焦らない

作者からひとこと
ネパールの魅力に惹かれ、個人的なボランティアで8年間ほど渡航していました。人なつっこいネパール人の気質となぜか耳に心地よいネパール語が大好きです。辞書や参考書からは得られないこの国のことばの息吹を大切にしながら、日々ネパール語に対する理解を深めています。

                                              
ネパールに来てすぐに気づくのは、インフラ整備があまり進んでいないことです。いつでも水道の蛇口をひねれば水が出るというわけではなく、電気が1日24時間ずっときているのも珍しいことです。それで、一日の終わりにシャワーを浴びてさっぱりしたい時に、「水が出ない!電気がつかない!」ということも起こります。

シャワーぐらいであればまだ良いのですが、ネパールでは突然ストライキになって学校やオフィス・商業施設が閉じられたり、交通機関がストップしたりすることもよくあります。この場合のストライキというのは労働者が起こすものというよりも、主に政党間の争議によるものです。こうなると、その日一日の予定が全くダメになってしまいます。

そういう時は手持ち無沙汰で落ち着かない気持ちになるものですが、ネパール人は違います。大人たちは近所の人たちとのおしゃべりに花を咲かせたり、子どもたちは車が全く走らない大通りでサッカーをしたりと、その状況を受け入れて楽しんでさえいます。実際、ネパール人の間には“タイム・パス”という言葉があります。「暇つぶし」という意味のようですが、焦って何かを達成しようとしない、状況に抗わない態度がよく表れています。

もちろん、何もしないでいては何事も前に進みません。ネパール人も「ここは何としてでも乗り切らないといけない」という場面では粘り強く努力します。たとえば、ネパールでの長距離のバス移動には土砂崩れや車のトラブルがつきものです。それでも、ショベルカーが地道に土砂の山を撤去したり、きちんとした修理道具がなくても車の不具合をどうにかこうにか調整したりして、時間こそかかるものの目的地にたどり着くことができます。

社会の状況が望ましいものではなく、個人の目的を成し遂げるために活用できる手段や道具が限られていても、ネパール人は焦りません。むしろ、自分たちの生活と楽観的に向き合っているように見えます。ネパールに住んでいると、いろいろなことがあっても「何とかなるさ」というゆったりした気持ちにさせられます。そして、本当に大抵のことは何とかなってしまうのです。

これは、時間や目的の達成が重視される日本との大きな違いです。ネパール人と一緒に仕事をしたりすると、初めのうちは彼らの態度に戸惑いを感じることもあるでしょう。ですが、私たちは彼らの焦らない態度や粘り強さから学ぶことができるかもしれません。互いの文化や価値観を尊重し合うなら、私たちにとってネパール人はきっと良いパートナーになることでしょう。

                                                  ネパール語の通訳・翻訳家・講師 高橋 伸生