日本経済新聞 掲載記事のご紹介
日本経済新聞に掲載された記事をご紹介させていただきます。
日本経済新聞静岡経済面より転載
(2019年8月24日朝刊 静岡支局長 原田洋)
露語通訳・歌手の長阪有美奈さん、母国と静岡の架け橋に(静岡 きらり人財)
7月19日、ロシア・ノブゴロド州の副知事ら幹部が静岡県の川勝平太知事を表敬訪問した。会談の席上、通訳を務めたのが長阪有美奈(アルビナ)さん(42)だ。
アルビナさんは2017年、ロシア語の翻訳や通訳のほかブライダルの企画や演奏などを事業とするP&S(静岡市)を設立し、静岡県内を中心に活動している。
18年夏にはロシア大使館の要請でロシアの国会議員らの静岡県立静岡がんセンターへの訪問で通訳を担当。活躍の場を広げつつあるアルビナさんだが、もともと通訳志望だったわけではない。
ロシア極東部のハバロフスク市で生まれたアルビナさんは幼少時からピアノとクラシック音楽を学び、1996年にハバロフスクの芸術大学を卒業。国立の児童向け音楽学校の教師になった。
しかし、ソビエト連邦の崩壊からまもないロシアでは経済混乱が続き、給与は3カ月以上払われなかった。一方、90年代にバブル経済が崩壊したとはいえ、日本は経済が安定した国というイメージが定着していた。
語学が得意だったアルビナさんは日本に関心を抱き、ロシア人の日本語教師から基礎を学んだ。日本について良い印象を抱いていなかった母親らの反対をおし切って99年に来日し、静岡市内の日本語学校に入学した。この学校で教材関係の仕事をしていた現在の夫と知り合って結婚した。
転機が訪れたのは02年。サッカーワールドカップ(W)日韓大会でロシアチームが来日し、スポンサー企業の関係者が宿泊した静岡市内のホテルから通訳を頼まれた。
04年からは音楽活動も再開した。夫の転勤で移り住んだ福岡市の結婚式場で演奏する機会を得たのがきっかけだった。クラシックだけでなく、海外映画の主題歌、ジャズから日本のポップス音楽まで幅広くこなす歌手として結婚式やディナーショーに出演してきた。
「人に伝えるという点で歌と通訳は似ている」とアルビナさんは話す。どんな仕事でも与えられたらとことんやり遂げるアルビナさんを、夫は日ごろから「完璧主義者」と呼ぶという。会社をP&S(Perfect Studio)と名付けたゆえんだ。
現在の最大の関心事は4歳になった長男のこと。「ロシア人にも発音しやすい」との理由で「慶(けい)」と名付けた長男とは、ふだんはロシア語で会話する。「慶には私の国(ロシア)も理解してほしい」からだ。
子育てが一段落したら、「ロシアと静岡をつなぐ貿易関係の仕事を始めたい」と意気込む。母国と日本をつなぐ生きざまを、だれよりも息子に見せたいと願っている。